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2013年度 建築工学科 春期海外研修旅行報告(前編:ポルトガル)

カテゴリ :
行事報告
更新日時 :
2014年03月27日

文責:岩田 伸一郎(企画・引率)

 例年、本学科の海外研修旅行ではフランスやイタリアを中心に研修先を組んできたが、今年度は少し趣向を変えて同じ欧州でもイベリア半島にスポットを当ててみた。
ポルトガルは、リスボンやポルトといった都市部においてもまだまだ古き良き時代の面影が色濃く残っており、歴史の延長上に脈々と営み続けられている欧州の街並みを体験するには絶好の対象である。また、歴史的景観のみならず、現代建築の注目度も高い。ポルトガルの現代建築家と言えばアルヴァロ・シザとソウト・デ・モウラの2人のプリツカー賞受賞者が挙げられ、特に日本での人気のシザの作品を数多く見ることが今回の研修旅行のテーマの一つである。彼らの作品は玄人好みのものが多く、訪れた人たちからは「あの空間の魅力は写真だけではわからない」と聞くが、研修旅行の参加者たちにもそのように言えるような体験をしてもらいたいと考えた。
スペインは、1992年のバルセロナ・オリンピックとマドリードの欧州文化首都指定という2つのビッグイベントを機に都市環境の近代化を加速させて、その完成形に至った旬の時期にある。スペイン建築家と言えば多くの人々が真っ先にイメージするアントニ・ガウディの作品群は勿論しっかり押さえた。2010年に祭壇が完成したばかりのサグラダ・ファミリア教会の圧倒的な内部空間の迫力は、参加者にこの研修旅行のクライマックスの感動を与えてくれるだろう。
ポルトガルもスペインも日本からの直行便はなく、どこかの都市を経由しなくてはならない。それならば、文化も風土も全く異なる中東のドバイを経由地に選び、帰りに1日だけ立ち寄るオマケを付けた。
このように出来たのが以下の日程表だ。なかなか体力的にハードな行程で、30時間にもおよぶ初日の移動,寝台列車によるポルトガルからスペインへの国境越え,深夜便での移動が連続するドバイ研修と、3度の試練が待ち受ける。恐らく参加者たちは若さで乗り切ってくれるだろうが、引率する自身の体力にもう少し配慮すれば良かった。

2014海外研修map.jpg2013海外研修日程表.jpg昨年11月からの2ヶ月間の募集期間を経て21名の参加者が集まり、予定通りの実施に至った。以下、研修先での様子を、画像とともにダイジェストで紹介したい。
※画像はクリックで拡大

<ポルトガル>
①ポルト
■ポルトの街並み
ポルトガル第2の都市で、国名の由来にもなった街。宮崎駿監督の「魔女の宅急便」のモデルだそうだ(他にも同様に言われている街があり、真相は定かでないが)。世界遺産に指定されている歴史地区を対岸から望む景観は、絵画からそのまま飛び出して来たようで美しいの一言。
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■ポルト大学建築学部
設計者のアルヴァロ・シザ自身が現在教鞭をとっている、ポルトガルでトップの建築学部だ。モンテネグロ先生にキャンパス内を案内していただき、ちょうど行われていた2年生のスタジオの様子も覗くことが出来た。
シザはカフェテリアをキャンパスで一番大切な場所と考え、入口に配置したカフェテリアからはじまる軸線を最初に描いたとのこと。軸線上の中庭を挟んで学年ごとに分かれた5棟の教室棟と図書館など共通棟が配置されているが、教室棟の規模は上級学年になるほど小さい。進級のハードルが高く、高学年ほど学生数が減るためだそうで、やはり欧米の大学は日本と違って厳しい。白一色の建物は形態もシンプルだが、多様な窓のデザインが程好いアクセントになっていた。
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■ボウサの集合住宅
 途中の中断を経て約30年の歳月を掛け2006年にようやく完成した低所得者向けの集合住宅で、これもシザの作品。治安のためか、かなり閉鎖的な独特の外観が印象的だ。スチール格子戸で守られたアルコーブに対して開口部が取られている。今回は外観だけの見学だったが、内部も是非見てみたかった。
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■カサ・デ・ムジカ
「音楽の家」と名付けられた音楽ホール(ポルトガル語で「カサ」は家、「ムジカ」はミュージック)。ポルトが欧州文化首都に指定されたことを機に計画され、レム・クールハースがコンペを勝ち取った。建物が隕石で、広場のうねった床はその落下の衝撃を表現しているとか。スペイン・ビルバオのグッゲンハイム美術館の成功以来、イベリア半島ではアイコン的な現代建築の建設がちょっとしたブームになっているそうだ。建築の個性的な形態も然ることながら、大ホールの見下ろすように配置した小スペースの内装にポルトの歴史的建造物に使われているテクスチュアを用い、それを無機質なコンクリートの外壁に開いた大きな開口部の奥にちらっと見せるあたりは流石だ

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■セラルヴェス現代美術館
美術館と言えば、やはりどのように自然光を取り入れるかが設計者の腕の見せ所であろう。展示室ごとに異なる採光方法が取られ、同じ仕上げの真っ白な天井や壁であるはずなのに空間ごとに違う色味や表情を持つ。アプローチ空間も秀逸だった。
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■レサのスイミングプールとボア・ノヴァ・ティーハウス

個人的にこの研修旅行の中で最も楽しみにしていた見学先の一つがこのプール。海辺になぜプール?と思うかもしれないが、ポルトの海岸は岩場ばかりで海水浴をできるところが少ないためらしい。低コストでつくるために自然の岩場に最小限の手を加えてプールをつくっているのだが、築50年近くが経過してコンクリートが風化して岩場といい感じに同化している。願わくば、夏に来て水が張られたシーンを見てみたかった。
同じ海岸線沿いで少し離れて位置するティーハウスも自然の岩場の高低差を活かした内部空間が魅力で、その高低差が水平線へのViewを絶妙に変化させるとか。レストランは閉店し中が見られないことは分かっていたが、数週間前に高波に飲み込まれて破損し修理中で、外観も悲惨な状態だった。幸いな事に、今後は市が管理し整備を行うことになったそうなので、是非とも再訪したい。
言い忘れたが、どちらも1960年代に建てられたシザの初期の作品。
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②マルコ・デ・カナヴェーゼス
■サンタマリア聖堂と教区センター
この教会の中に入って真っ先に音の共鳴に驚かされる。楽器の中にでもいるような感覚で、静まりかえった真っ白な空間の中で人の声が増幅されて響き渡る様に、確かに何か神聖で神秘的な気配を感じ、まぎれもなくここは教会なんだと確信できる。普通であればシンプルな箱状の枠の中にきれいに納めてしまいたくなるところを、敢えてそれ放棄するように角を曲線でえぐり取り、壁面を緩やかにかつ大胆に湾曲させ、光取りのスペースを張り出させるなど、流石と思わせる建築的操作が随所に見られる。正にこの建築の真価は内部空間を体験してみないと分からない。この教会のために、人口6万人の田舎街までわざわざ足を運ぶ人々が絶えない理由が納得できる。
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③アマレス
■ポサーダ・デ・アマレス サンタ・マリア・ドゥ・ボウロア
個人的にこの研修旅行のメインはこのポサーダ。ポサーダとは歴史的建造物を改修した国営ホテルで(現在は国営ではないらしい?スペインではパラドールと呼び名が異なる。)、ここに宿泊するために研修先をポルトガルに決めたと言っても過言でない。ポサーダ・デ・アマレスは12世紀のシトー会の修道院を改修したもので、その設計者は先に紹介したソウト・デ・モウラ。石壁とコールテン鋼の天井とのコントラストや、スチールでシンプルにデザインされた開口部のディテールが、元の建物の重厚感や厳格さを損なわせることなく新旧を調和させていた。
5つ星ホテルで、学生が大勢で泊まるには贅沢で場違い?とも思えるが、このような体験こそ研修旅行の醍醐味だからと旅行社には頑張って頂いた。32室しかないため貸し切りに近い状態で、ミシュランで星を獲得しているというレストランでのディナーも満喫した。ポサーダ側にとっては我々は珍客だったようだが、建築学生の研修旅行であることを伝えると、彼らの自慢の建物を見に来たことをとても喜んでくれた。
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④リスボン
■リスボンの街並み
ポルトガルの首都で、西ヨーロッパで最古の都市である。都市圏人口が300万人を超える都市だが、意外にもリスボン市だけの人口を見れば54万人と船橋市よりも少ない。丘にビッシリと建物が敷き詰められた様子は先に訪れたポルトの街並みと共通し、その色彩はパリ,ロンドン,マドリードといった近隣諸国の都市とは明らかには異なるものであった。
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■ジェロニモス修道院とベレンの塔
少々慌ただしい日程であったが、リスボン市内観光の定番であるこの2つの建築にシントラ地区の王宮を加えた3つの世界遺産はちゃんと押さえてきた。
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■オリエンテ駅
設計者は、生物の骨格などを彷彿させる造形的で構造を強調したデザインを得意とするスペイン人建築家のサンディアゴ・カラトラバ。フランスのリヨン駅やベルギーのリェージュ駅のようにシンボリックで完結した形態の作品が多い中、プラットフォーム屋根の樹状フレームを反復させる手法はカラトラバのデザインとしては特異で、駅舎という機能を超えた風景と呼ぶに値する。1998年にこの作品が発表されたときからいつか訪れたいとずっと気になっており、今回ようやく実現した。明解なコンセプトがもたらす建築の力強さは画像を見れば一目瞭然でしょう。
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■リスボンEXPO'98ポルト館
ソウト・デ・モウラとアルヴァロ・シザによる共同作品で、何といっても見所は広場を覆う無柱の大屋根だ。構造の考え方がデザインを決定づけているが、先のオリエンテ駅における構造的な感性とは全く別物である。厚さ20センチのコンクリートの巨大な面が、65mのスパンをワイヤーで吊られてキャンバス地のようにたわむ光景は圧巻で、もはやコンクリートは重力と切り離されて別の素材であるかのようにさえ感じられる。設計者の発想力には脱帽で、屋根を吊るワイヤーの端部を敢えて見せるディテールもため息ものだ。ちなみに、構造を担当したのはセシル・バルモンド。

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後編(スペイン・ドバイ)に続く

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